看護師長の役割は実に多岐にわたります。
担当する病棟で起きる全ての事柄を取りまとめることはもちろん、部下の看護師たちの教育指導から勤務シフトの作成・管理、日々の人員調整に至るまで、対外的にも対内的にも大きな責任を担う、一般企業で言えば「管理職」にあたるポジションです。
常に正しく厳しく、部下からは多少近寄りがたいとも思われていることでしょう。
なぜなら、看護師長といえば病棟を取り仕切る逞しきリーダーであり、とにかく「強い」存在であるからです。
ところが、彼女たちにも悩みはあります。
看護師という職業自体が元来キツイ仕事である上に、リーダーとしての責任の上乗せがあるわけですから、師長に特有の辛さも抱えることとなり、更にはその立場ゆえに相談できる相手もなかなかいません。
そのため、孤独に陥って自分自身に余裕がなくなり、本人も限界に達するとともに周囲にも負の影響を与えてしまう・・・そんな看護師長は実はよくいるものです。
ここでは、そんな看護師長の抱える問題点と病院全体に及ぼす影響、そして解消法についてお伝えします。
看護師長となる人は孤独なファイターである
まず、看護師長自身について分析してみましょう。
師長となるような人は、並みいる看護師たちから一歩抜きんでて、主任看護師、そして看護師長へと上り詰めたのだから、その他大勢とは決定的に違うリーダーとしての資質や上昇志向があると思われがちです。
ところが、実際のところそのような人は多くありません。
ほとんどの場合、ただ自分のビジョンに従って、まじめに職務をこなしてきており、何よりも患者のためを思って、看護の道をまっすぐ進んできた結果、いつの間にか昇格していたというケースだったりします。
但し、離職率が非常に高い「看護師」という職業において、師長になるまで生き残った――それだけで、周囲の看護師とは一線を画しているとみられ、それが昇格につながるわけです。
すなわち、彼女たちは職能が高く勤勉であること以外に、ストレス耐性が高く、職務に対するビジョンが明確です。そしてそれゆえに自分自身にも他人にも厳しい傾向にあります。
そしてそれこそが彼女たちが孤立し、敬遠される理由であり、また本人が限界に陥る要因となったりもするのですが、やはり彼女たちの看護師長たる所以は「ひとりでも職務をまっすぐ貫く強きファイター」であることなのです。
看護師長はなりたくてなったわけではない?限界に陥る看護師長たち
但し、強きファイターであることはさることながら、看護師長は必ずしもその人本人が望んでなるものではありません。
看護師という職種に就く人はもともとリーダー志向が強くない傾向にあります。
そのため、本人が進んで看護師長のポジションを志すことは少なく、先ほど述べたように経験と職能に基づいてあるとき抜擢されるというパターンになりがちです。
結果、本人たちには「なりたいわけではなかったのになってしまった」という葛藤が大きくなります。
看護師長たちは、当然ながら職務能力は高いものの、リーダーたる資質となると全く別。
リーダーシップがうまく取れない自分と看護師長としてあるべき姿、やるべきことの間で悩み、やがて限界に陥るケースが多々あります。
例えば、
“師長とはいえ現場にもまだ出るし、師長としての仕事もあって、自分のことだけでいっぱいいっぱいなのにさらに部下の面倒見まで・・・
そもそも望んで師長になったわけでもないのに、無理!
―― これは、新任看護師長によくある悩みのひとつです。
新任看護師の立場からは、ベテランの師長たちは皆てきぱきと仕事をこなし、精神的にも余裕があるように見えます。
師長になるべくしてなったベテラン師長と、師長になりたくなかった自分は違うから、自分には同じようにはできない ―― 実はベテラン師長も経験と慣れを経て今の姿になっただけなのに、新任師長はこうしてお互いの違いを勝手に誤って解釈し、ますます自信と余裕をなくしてしまうこともあります。
自分のことで精一杯になるあまりに周囲を気にかけることができなくなった看護師長の下では、やはり看護師にとっての良い環境は育ちません。
ところが、この人たちは余裕がないことが特徴なので、周囲がどんな状況かを見定めることもできず、自分のことさえも客観的に見られなくなっています。
なぜできないの?看護師の「限界」を招く看護師長たち
セルフマネジメント以外にも壁はあります。
看護師長の苦労の種としてしばしば挙げられるのが部下の看護師たちとの関係の築き方。
内心では部下たちともうまくやっていきたい・・・けれど自分は師長だから師長らしい威厳を保たなければならない、教育・指導に徹しなければならない。そんな風に気負ってしまうことも間々あります。
その結果、部下に対しても仕事・意識の面で高い水準を求めてしまい、
「部下の看護師が不平不満を言ってばかりで使えない」
と悩む“ひとり相撲”に陥りがちです。
面倒なことを押し付け合い、何かというと人のせいにする部下。
コミュニケーション能力がなく、患者とも同僚の看護師とも関係を築けない部下。
堪え性がなく、すぐに辞めてしまう部下。
「自分の若い頃はもっと覚悟もやる気もあったのに・・・」と自分と比較し、自分の理想を基準に部下を評価してしまうようになった看護師長は、やがて「うまくいかないのはやる気のない部下が原因」と他責行動に走っていきます。
部下に自分の理想を押し付けては圧力を与え、知らず知らずのうちに看護師たちのストレスを蓄積させ、看護師離職の原因を自ら作ってしまうのです。
「うまくいっていない」看護師長こそがカギを握る
前述のとおり、看護師長となる人は元来「強い」人であり、スタンダードの高い人です。
スタンダードが高いからこそ、他人が自分の思うように動かないことや、“うまくいっていない”状態そのものを許容できず、周りの状況や上司・部下など周囲の人々―― つまり自分以外の何かが変わらなければうまくいかないと思っていたりもします。そうして、他責行動に走ったり、誤った解釈で自分を納得させようとしたりしていくのです。
だから、「うまくいっていない」という思いはあったとしても、自分自身こそがうまくいかない原因であり、自分自身こそが状況を改善できることに気づくことはできません。
しかし、こうした「なにかうまくいかない」「もう限界かも」と感じている看護師長こそが、職場を変える大きなチャンスを秘めた人物になり得ます。
というのも、このような感情のベースにあるのは、「何かを変えたい」「より良い病棟にしたい」という思いなのであって、彼女たちはその思いを実現するための方法を間違えているだけのこと。
現在のやり方では状況が変わらないこと、自分にも改善すべきところがあることに気づき、部下の気持ちに歩み寄ることや、自分自身と周囲を客観的に見る目を養うことを学びさえすればいいのです。
彼女たちの本来の姿はやはり強いミッションを抱く良きナイチンゲール。
本来の姿を思い出しさえすれば、病棟を、そして病院全体を変える力を持っているものです。
看護師長向けのコーチング研修
さて、このようにうまく看護師長を変えていく方法ですが、単に「変えてくれ」と言ったところで変わるものでもありません。
現段階においては、そもそも自分自身が変わる必要性はないと考えているからです。
そこで、まずはその必要性を認識させるところから始めなければなりません。
今医療業界で注目されつつある手法に「コーチング」があります。
コーチングとは、答えを教える手法である「ティーチング」に対して用いられるコミュニケーション法で、答えを教える代わりに相手に考えさせ、相手にしゃべらせることで本人に自分自身のことや周囲のことを客観的に認識させる手段。
看護師長に対してもこれを用いることで、人から言われて気づかないことであっても、自分自身で考えた上で「気づき」を得ることができれば、新たな認識としてきちんと植えつけることができます。
更に、コーチングは看護師長自身の認識を育てるのに役立つほか、看護師長が部下の看護師の指導にあたるうえでも役に立つ技術です。
前述のとおり、看護師長となる人は元来看護師としての真っ当なビジョンを持ち、ものごとを良くしたいという気持ちを持っているものです。コーチング研修をうまく生かすことで全体の風土を良い方向に転換すれば、現場にとっては職場環境改善、経営にとっても看護師の離職率低下にもつながります。
カギを握るのは看護師長です。
しかしながら、看護師長自身がきっかけをつかむためにも、全体の風土を変えるためにも、個人の努力だけではなかなか難しいものがあります。
また、院全体の取り組みとして取り入れることが最大効果を生むこともわかっています。
看護師長のみに任せることなく、院長・看護部長などが率先してコーチング研修を導入し、推し進めることが成功のポイントです。